今回は、サービス残業の残業代請求に関する判例を紹介します(つづき)。
第2 事案の概要
本件は,被告の従業員であった原告らが,割増賃金(残業代)の支払(いずれの原告についても,平成14年3月支給分から平成16年3月支給分までのもの)を求めた事案である。
1 前提事実(証拠を掲記した事実を除くほかは,当事者間に争いがないか,争うことが明らかにされていない事実である。)
(1)被告
被告は,ファッションホテル(ラブホテル)である「ユーズT」(以下「本件ホテル」という。)を経営する株式会社である。
本件ホテルには,客室が39室ある(〈証拠略〉)。
(2)原告ら
原告らは,いずれも被告の従業員であり,本件ホテルにおいて業務に従事していた者である。
各原告の担当していた業務内容,入社時期,退職時期は,次のとおりである。
ア 原告A フロント業務担当
平成11年4月9日入社 平成16年3月15日退職
イ 原告B フロント業務担当
平成11年4月12日入社 平成16年3月15日退職
ウ 原告C フロント業務担当
平成13年6月26日入社 平成16年3月15日退職
エ 原告D フロント業務・一般事務担当
平成13年6月25日入社 平成16年3月15日退職
オ 原告E ルームメイク業務担当
平成8年11月16日入社 平成16年3月15日退職
カ 原告F ルームメイク業務担当
平成6年8月7日入社 平成16年3月15日退職
キ 原告G ルームメイク業務担当(なお,原告Gは,平成15年9月16日以降,メイクリーダーであった。)
平成13年11月26日入社 平成16年3月15日退職
ク 原告H フロント業務・一般事務・リーダー業務担当(なお,原告Hがリーダーとなったのは,平成15年5月16日以降である。)
平成11年12月13日入社 平成16年3月15日退職
(3)原告らの勤務態勢
原告らの勤務態勢は,次のとおりであった。
ア 原告A,原告B及び原告C(フロント業務)
3日に1日,13時(午後1時)から翌日の13時(午後1時)までの勤務となっていた。
イ 原告D(フロント業務・一般事務)
(ア)平成15年5月まで
17時(午後5時)から翌日の1時(午前1時)まで
(イ)平成15年6月から
16時(午後4時)から24時(午後12時)まで
ウ 原告E,原告F及び原告G(ルームメイク業務)
(ア)平成15年4月26日まで
9時(午前9時)から17時(午後5時)まで
(イ)平成15年4月27日まで
8時(午前8時)から16時(午後4時)まで
(以上について,〈証拠略〉,原告F,弁論の全趣旨)
エ 原告H(フロント業務・一般事務・リーダー業務)
9時(午前9時)から17時(午後5時)まで
(4)被告の給与規定の内容
被告の給与規定(平成13年4月1日から実施されたもの)や就業規則(同日から実施され,平成14年3月30日に改定されたもの)には,次の旨の定めがある(〈証拠略〉)
。
ア 時間外勤務手当(残業代)(給与規定16条)
時間外勤務手当(残業代)は,正規の就業時間を超えて勤務することを命じられ,その勤務に服した一般職に支給する。
時間外勤務手当(残業代)の額は,その勤務時間につき,勤務1時間当たりの算定基礎額に100分の125を乗じた額とする。
イ 休日勤務手当(給与規定17条)
休日勤務手当は,休日に勤務することを命じられ,その勤務に服した従業員に支給する。ただし,振替休日を与えられた場合は,当該休日勤務は,通常の勤務日に勤務したものとみなし,休日勤務手当は支給しない。
休日勤務手当の額は,勤務1時間当たりの算定基礎額に対して,法定休日については100分の135,その他の休日については100分の125を乗じた額とする。
ウ 深夜勤務手当(残業代)(給与規定18条)
深夜勤務手当(残業代)の額は,午後10時から午前5時までの間に勤務した従業員に支給する。深夜勤務手当(残業代)の額は,その勤務時間につき,勤務1時間当たりの算定基礎額に100分の25を乗じた額とする。
エ 職務手当(給与規定20条)
職務手当は,一般職に従事する従業員に支給する。
職務手当の額は,時間外及び深夜勤務等の特殊性を考慮して別に定める。
職務手当の支給を受ける者には,特に指定した場合を除き,時間外及び深夜勤務手当(残業代)は支給しない。ただし,時間外及び深夜勤務手当(残業代)額が職務手当額を超える場合には,別途超過額を職務手当の追加分として支給する。
オ 皆勤手当(給与規定21条)
皆勤手当は,無欠勤にて1か月就業した場合に支給する。
カ 計算期間など(給与規定7条)
従業員に毎月支払う給与は,前月16日から当月15日までを計算期間として当月の末日に支払う。ただし,支給日が休日に当たるときは,その前営業日に繰り上げて支給する。
時間外手当(残業代),休日勤務手当及び労働基準法11条並びに91条に規定する賃金の減額については,前月16日から当月15日までを一給与計算期間とし,当月15日をもって締め切る。
キ 変形労働時間制(就業規則12条)
業務の都合により,1か月単位の変形労働時間制による勤務を実施することがある。(なお,平成14年3月30日改定前の就業規則においては,「業務の都合により,変形労働時間制による勤務を実施することがある。」と定められていた。〈証拠略〉,原告A)
ク 時間外勤務(就業規則15条2項)
従業員が時間外勤務を行う場合には,原則として所属長に事前の承認を得なければならない。
(5)原告らのタイムカード
原告らが打刻していたタイムカードにおける出勤時刻及び退出時刻は,別紙労働時間計算表1ないし8〈略〉の「出社時刻」及び「退社時刻」欄記載の時刻のとおりである。
(6)原告らの各月の給与額(基本給や各種手当の額)は,別紙計算表1ないし8〈略〉に記載のとおりであった。
企業の方で、残業代請求についてご不明な点があれば、顧問弁護士にご相談ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料やサービス内容が異なりますので、比較することをお勧めします。その他にも、個人の方で、交通事故の示談交渉、解雇、敷金返却・原状回復義務や借金の返済、刑事事件、遺言や相続などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。
2009年1月2日金曜日
法律顧問・顧問弁護士の扱うテーマ:残業代
このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、未払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今日のテーマは残業代の請求です。
会社が残業代を払わない場合、その会社に対しては付加金という非常に大きなペナルティが科せられます。
付加金は、裁判所を使って未払い残業代の請求をするときに、未払いの額と同じだけの額を追加して請求できるというものです。つまり、請求額が2倍になるということです。
しかも、付加金には、それが認められた日(=判決が確定した日)から年利5%の遅延損害金(支払いの遅れたことにより余分にもらえるお金)が加算されます。
そうすると、会社側としても、未払い残業代だけではなく、付加金まで支払わされるのを避けるため、裁判は避けたいと考えるのが自然でしょう。ですから、裁判をする前に、会社が任意で未払い残業代を支払うことを高い確率で期待できるのです。
さらにすごいことに、未払い残業代というのは、不払いのときから、年利率6%の遅延損害金を請求することができるのです。この低金利の時代において、6%の利率は非常に高いといえます。さらに、その従業員が会社を退職した以降は、年利14.6パーセントの遅延損害金を請求できます(賃金の支払の確保等に関する法律第6条)。
これら全てを合計すると、請求額が、そもそもの未払い残業代の何倍にもなることがあります。
ただ、残業代は過去2年までしかさかのぼって請求できません。お早めに弁護士に相談することをお勧めします。また、企業側の方で、残業代について不安な点などがあれば、顧問弁護士に相談すると良いと思います。なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
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会社が残業代を払わない場合、その会社に対しては付加金という非常に大きなペナルティが科せられます。
付加金は、裁判所を使って未払い残業代の請求をするときに、未払いの額と同じだけの額を追加して請求できるというものです。つまり、請求額が2倍になるということです。
しかも、付加金には、それが認められた日(=判決が確定した日)から年利5%の遅延損害金(支払いの遅れたことにより余分にもらえるお金)が加算されます。
そうすると、会社側としても、未払い残業代だけではなく、付加金まで支払わされるのを避けるため、裁判は避けたいと考えるのが自然でしょう。ですから、裁判をする前に、会社が任意で未払い残業代を支払うことを高い確率で期待できるのです。
さらにすごいことに、未払い残業代というのは、不払いのときから、年利率6%の遅延損害金を請求することができるのです。この低金利の時代において、6%の利率は非常に高いといえます。さらに、その従業員が会社を退職した以降は、年利14.6パーセントの遅延損害金を請求できます(賃金の支払の確保等に関する法律第6条)。
これら全てを合計すると、請求額が、そもそもの未払い残業代の何倍にもなることがあります。
ただ、残業代は過去2年までしかさかのぼって請求できません。お早めに弁護士に相談することをお勧めします。また、企業側の方で、残業代について不安な点などがあれば、顧問弁護士に相談すると良いと思います。なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
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