2010年6月4日金曜日

顧問弁護士(法律顧問)が扱う論点:事業譲渡と労働関係

このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。テーマは広く紹介していますが、近時、不払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。

今回は、事業譲渡と労働関係の問題についてです。

事業譲渡と労働関係の問題が生じたときに争点となるのは、①譲渡人と譲受人の実質的同一性、②法人格の濫用、③雇用契約関係の承継の合意の有無です。主に争われるのは③です。この点について、東京高裁(東京日進学園事件。経営が破綻した訴外学校法人Xが設置運営していた専門学校の経営を新しく設立された学校法人である控訴人が引き継いだ際、Xの教員として雇用されていた被控訴人を控訴人が雇用しなかったことが不当労働行為に該当し、不採用行為は無効であるとして、被控訴人が控訴人に対して雇用関係を主張したのに対し、控訴人が、本訴請求として、被控訴人との間に雇用関係が存在しないことの確認を求め、他方、被控訴人が、反訴請求として、賃金支払等の支払いを請求した事案)において、以下のとおり判断しました。

 控訴人と法商学園との間に、法的に教職員の雇用契約関係の承継を基礎づけ得るような実質的な同一性があるものと評価することはできないというべきである。
 法商学園は、その設置していた三専門学校において平成一〇年までに累計五万人を超える卒業生を世に送り出し、平成一〇年四月時点の総生徒数は四三六四人であった一方、昭和六三年ころから拡大路線を採り、研修施設や新校舎の購入等及び広告宣伝費に多額の資金を投じた結果、平成一〇年七月ころには一八〇億円の莫大な債務超過の状態に陥って、学校運営を継続するのが困難となり、東京都の担当者から、三校につき、平成一〇年一〇月一日に法商学園の解散と新たな経営主体への設置者変更が同時にできなければ、平成一一年度入学生の募集を停止するとの考えを示されたため、三校の引き継ぎ先(売却先)を早急に見つける必要に迫られ、Lが、東専各の協会長であるWと共に、Nに対し、新学校法人を設立して三校の運営を継承することを懇請し、Nが、これに応じて、人脈をたどり、Z、Y及びX1の協力を取り付けて新学校法人の設立にこぎつけたものであることが認められるのであって、これに反し、法商学園の解散と控訴人の設立が、労働組合を壊滅させるためとか、被控訴人の組合活動を嫌悪してこれを排除するためにされたなど、法人格の濫用に当たるものと評価すべき事実関係を認めるに足りる証拠はない。
 営業譲渡契約は、債権行為であって、契約の定めるところに従い、当事者間に営業に属する各種の財産(財産価値のある事実関係を含む)を移転すべき債権債務を生ずるにとどまるものである上、営業の譲渡人と従業員との間の雇用契約関係を譲渡人が承継するかどうかは、譲渡契約当事者の合意により自由に定められるべきものであり、営業譲渡の性質として雇用契約関係が当然に譲渡人に承継されることになるものと解することはできない。

会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。

個人の方で、相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。

なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。

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