2010年12月6日月曜日
交通事故の判例紹介
交通事故の裁判例です。交通事故の示談や慰謝料については弁護士に相談することをお勧めします。貴社の社員が交通事故を起こしてしまった場合は、顧問弁護士にご相談ください。本件交差点は、別紙交通事故現場見取図(以下「別紙図面」という。)記載のとおり、東西に走る道路と南北に走る道路が交差する十字路交差点である。本件交通事故当時の天候は晴れで、路面はアスファルト舗装され平坦で乾燥しており、交差点内に車両の進路前方の見通しを妨げるものは何もなかった。被告は、被告車両を運転して、東西道路を東方から西方に向かい進行してきて本件交差点に至り、対面信号機(別紙図面で(甲)と記載されたもの。)の赤色表示に従い、先頭車両として停止線手前で停車した(同図面の〔1〕と記載された位置。)。その際、本件交差点北西角に位置するガソリンスタンド手前の歩道上付近を確認したが、信号待ちをしている自転車等は見当たらなかった。その後、信号機が青色に変わったため、被告車両をゆっくりとした速度で発進させ、同図面記載〔2〕地点付近で、進行方向右(北)方の南行き車線の内、分離帯で区画された歩道寄り車線上を進行してくる車両がないかどうか確認したが、車両がなかったため、徐々に加速しながら直進したところ、同図面記載〔3〕地点付近において、右方から被告車両の直前に進出してきた原告の運転する自転車の前輪左側面部に、ほぼ真横から、被告車両中央ないし右前部を衝突させた。被告は、衝突の直前に自転車を発見し、直ちに急制動の措置を講じたが衝突を回避できず、被告車両は原告に衝突した後、別紙図面記載〔4〕地点付近で停止した。上記のとおり認定した事実によれば、被告は、被告車両を運転して、対面信号機の青色表示に従い、時速三〇キロメートル以下の速度で本件交差点内を通行しようとしたものであるが、交差道路を通行する自転車等に対する注視を欠いて、交差道路上を北方から南方に向かい進行してきた原告運転の自転車に衝突直前まで気付かず、自車を衝突させたことが認められるから、民法七〇九条に基づき、原告が被った損害を賠償すべき義務があるというべきである。なお、原告は、本件交通事故の状況につき、前記ガソリンスタンド手前の歩道付近で信号待ちをした後、信号機が青色に変わったので、本件交差点の南東角方向を目指して東西道路を斜めに横切るように自転車を運転中、いきなり正面から被告車両が接近してきたため、咄嵯にハンドルを左に切ったが、被告車両も同方向に寄ってきたため衝突した、前方から被告車両が進行してくるのは衝突直前まで気付かなかった旨主張し、かつ、供述する。しかしながら、原告がその主張するような走行経路をたどったのであるとすれば、原告と被告は、互いに進行方向右斜め前方から相手方車両が自車の方に向かって進行してくるのを容易に認めることができたはずであるから、双方共に衝突直前まで相手方車両に気付かなかったということは考えがたい。また、原告の供述するような衝突時の状況によれば、原告の自転車は被告車両と正面衝突するか若しくは自転車の右側面が被告車両と衝突することになると考えられ、原告の自転車前輪左側面に被告車両の前部ナンバープレートと衝突した痕跡(黄色塗膜の付着)が認められる(乙三添付の写真第六号)ことの説明がつかない。したがって、原告の前記供述は容易に信用することができないから、原告の主張は採用し得ない。ブログ
2010年8月1日日曜日
不動産の買戻特約付売買契約の法的性質
このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、未払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今日は、不動産の買戻特約付売買契約の法的性質についてです。
この点について、実務上問題になることが多いのですが、近時の最高裁判例は、以下のように判断しました(判決文の引用)。
真正な買戻特約付売買契約においては,売主は,買戻しの期間内に買主が支払った代金及び契約の費用を返還することができなければ,目的不動産を取り戻すことができなくなり,目的不動産の価額(目的不動産を適正に評価した金額)が買主が支払った代金及び契約の費用を上回る場合も,買主は,譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務(最高裁昭和42年(オ)第1279号同46年3月25日第一小法廷判決・民集25巻2号208頁参照)を負わない(民法579条前段,580条,583条1項)。このような効果は,当該契約が債権担保の目的を有する場合には認めることができず,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は,譲渡担保契約と解するのが相当である。
そして,真正な買戻特約付売買契約であれば,売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり,民法も,これを前提に,売主が売買契約を解除した場合,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなしている(579条後段)。そうすると,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。
個人の方で、以上の点につき相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。
なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
今日は、不動産の買戻特約付売買契約の法的性質についてです。
この点について、実務上問題になることが多いのですが、近時の最高裁判例は、以下のように判断しました(判決文の引用)。
真正な買戻特約付売買契約においては,売主は,買戻しの期間内に買主が支払った代金及び契約の費用を返還することができなければ,目的不動産を取り戻すことができなくなり,目的不動産の価額(目的不動産を適正に評価した金額)が買主が支払った代金及び契約の費用を上回る場合も,買主は,譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務(最高裁昭和42年(オ)第1279号同46年3月25日第一小法廷判決・民集25巻2号208頁参照)を負わない(民法579条前段,580条,583条1項)。このような効果は,当該契約が債権担保の目的を有する場合には認めることができず,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は,譲渡担保契約と解するのが相当である。
そして,真正な買戻特約付売買契約であれば,売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり,民法も,これを前提に,売主が売買契約を解除した場合,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなしている(579条後段)。そうすると,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。
個人の方で、以上の点につき相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。
なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
2010年7月29日木曜日
顧問弁護士(法律顧問)が扱うテーマ:労災保険
このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、残業代不払いの問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今日は、労災保険と損害賠償の調整についてです。
最高裁は、労災による損害賠償につき、将来支給される長期傷病補償給付金を逸失利益から控除すべきではないと判断しました。以下、判決文の引用です。
一 労働者災害補償保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであつて、厚生年金保険法に基づく保険給付と同様、受給権者に対する損害の填補の性質をも有するから、事故が使用者の行為によつて生じた場合において、受給権者に対し、政府が労働者災害補償保険法に基づく保険給付をしたときは労働基準法八四条二項の規定を類推適用し、また、政府が厚生年金保険法に基づく保険給付をしたときは衡平の理念に照らし、使用者は、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れると解するのが、相当である。そして、右のように政府が保険給付をしたことによつて、受給権者の使用者に対する損害賠償請求権が失われるのは、右保険給付が損害の填補の性質をも有する以上、政府が現実に保険金を給付して損害を補填したときに限られ、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり、このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しないと解するのが、相当である(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二年五月二七日第三小法廷判決(民集三一巻三号四二七頁登載予定)参照)。
二 ところが,原審は、将来給付を受けるべき労働者災害補償保険法に基づく長期傷病補償給付と厚生年金保険法に基づく障害年金について、その現在価額をそれぞれ四七五万九一三二円、四六五万六一六七円と算出して右の合計九四一万五二九九円を上告人の逸失利益から控除し、上告人の被上告人に対する右請求を棄却したのである。ところで、原審の適法に確定したところによると、上告人は、長期傷病補償給付として昭和四六年二月から同四八年一〇月まで年額二〇万八〇五〇円の割合による金員を、昭和四八年一一月から同四九年一〇月まで年額二三万〇八八一円を、障害年金として昭和四六年一一月から同四八年一〇月まで年額一一万八二五六円を、同年一一月から同四九年一〇月まで年額二四万一四四七円を現実に支給されているのであつて、その合計が一二八万〇九七七円となることは計算上明らかである。
したがつて、原審の判断のうち、右九四一万五二九九円から上告人が現実に給付を受けた右一二八万〇九七七円を控除した八一三万四三二二円を上告人の逸失利益から控除した部分は、法令の解釈を誤つており、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。個人の方で、以上の点につき相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
今日は、労災保険と損害賠償の調整についてです。
最高裁は、労災による損害賠償につき、将来支給される長期傷病補償給付金を逸失利益から控除すべきではないと判断しました。以下、判決文の引用です。
一 労働者災害補償保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであつて、厚生年金保険法に基づく保険給付と同様、受給権者に対する損害の填補の性質をも有するから、事故が使用者の行為によつて生じた場合において、受給権者に対し、政府が労働者災害補償保険法に基づく保険給付をしたときは労働基準法八四条二項の規定を類推適用し、また、政府が厚生年金保険法に基づく保険給付をしたときは衡平の理念に照らし、使用者は、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れると解するのが、相当である。そして、右のように政府が保険給付をしたことによつて、受給権者の使用者に対する損害賠償請求権が失われるのは、右保険給付が損害の填補の性質をも有する以上、政府が現実に保険金を給付して損害を補填したときに限られ、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり、このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しないと解するのが、相当である(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二年五月二七日第三小法廷判決(民集三一巻三号四二七頁登載予定)参照)。
二 ところが,原審は、将来給付を受けるべき労働者災害補償保険法に基づく長期傷病補償給付と厚生年金保険法に基づく障害年金について、その現在価額をそれぞれ四七五万九一三二円、四六五万六一六七円と算出して右の合計九四一万五二九九円を上告人の逸失利益から控除し、上告人の被上告人に対する右請求を棄却したのである。ところで、原審の適法に確定したところによると、上告人は、長期傷病補償給付として昭和四六年二月から同四八年一〇月まで年額二〇万八〇五〇円の割合による金員を、昭和四八年一一月から同四九年一〇月まで年額二三万〇八八一円を、障害年金として昭和四六年一一月から同四八年一〇月まで年額一一万八二五六円を、同年一一月から同四九年一〇月まで年額二四万一四四七円を現実に支給されているのであつて、その合計が一二八万〇九七七円となることは計算上明らかである。
したがつて、原審の判断のうち、右九四一万五二九九円から上告人が現実に給付を受けた右一二八万〇九七七円を控除した八一三万四三二二円を上告人の逸失利益から控除した部分は、法令の解釈を誤つており、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。個人の方で、以上の点につき相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
2010年6月4日金曜日
顧問弁護士(法律顧問)が扱う論点:事業譲渡と労働関係
このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。テーマは広く紹介していますが、近時、不払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今回は、事業譲渡と労働関係の問題についてです。
事業譲渡と労働関係の問題が生じたときに争点となるのは、①譲渡人と譲受人の実質的同一性、②法人格の濫用、③雇用契約関係の承継の合意の有無です。主に争われるのは③です。この点について、東京高裁(東京日進学園事件。経営が破綻した訴外学校法人Xが設置運営していた専門学校の経営を新しく設立された学校法人である控訴人が引き継いだ際、Xの教員として雇用されていた被控訴人を控訴人が雇用しなかったことが不当労働行為に該当し、不採用行為は無効であるとして、被控訴人が控訴人に対して雇用関係を主張したのに対し、控訴人が、本訴請求として、被控訴人との間に雇用関係が存在しないことの確認を求め、他方、被控訴人が、反訴請求として、賃金支払等の支払いを請求した事案)において、以下のとおり判断しました。
控訴人と法商学園との間に、法的に教職員の雇用契約関係の承継を基礎づけ得るような実質的な同一性があるものと評価することはできないというべきである。
法商学園は、その設置していた三専門学校において平成一〇年までに累計五万人を超える卒業生を世に送り出し、平成一〇年四月時点の総生徒数は四三六四人であった一方、昭和六三年ころから拡大路線を採り、研修施設や新校舎の購入等及び広告宣伝費に多額の資金を投じた結果、平成一〇年七月ころには一八〇億円の莫大な債務超過の状態に陥って、学校運営を継続するのが困難となり、東京都の担当者から、三校につき、平成一〇年一〇月一日に法商学園の解散と新たな経営主体への設置者変更が同時にできなければ、平成一一年度入学生の募集を停止するとの考えを示されたため、三校の引き継ぎ先(売却先)を早急に見つける必要に迫られ、Lが、東専各の協会長であるWと共に、Nに対し、新学校法人を設立して三校の運営を継承することを懇請し、Nが、これに応じて、人脈をたどり、Z、Y及びX1の協力を取り付けて新学校法人の設立にこぎつけたものであることが認められるのであって、これに反し、法商学園の解散と控訴人の設立が、労働組合を壊滅させるためとか、被控訴人の組合活動を嫌悪してこれを排除するためにされたなど、法人格の濫用に当たるものと評価すべき事実関係を認めるに足りる証拠はない。
営業譲渡契約は、債権行為であって、契約の定めるところに従い、当事者間に営業に属する各種の財産(財産価値のある事実関係を含む)を移転すべき債権債務を生ずるにとどまるものである上、営業の譲渡人と従業員との間の雇用契約関係を譲渡人が承継するかどうかは、譲渡契約当事者の合意により自由に定められるべきものであり、営業譲渡の性質として雇用契約関係が当然に譲渡人に承継されることになるものと解することはできない。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。
個人の方で、相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。
なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
今回は、事業譲渡と労働関係の問題についてです。
事業譲渡と労働関係の問題が生じたときに争点となるのは、①譲渡人と譲受人の実質的同一性、②法人格の濫用、③雇用契約関係の承継の合意の有無です。主に争われるのは③です。この点について、東京高裁(東京日進学園事件。経営が破綻した訴外学校法人Xが設置運営していた専門学校の経営を新しく設立された学校法人である控訴人が引き継いだ際、Xの教員として雇用されていた被控訴人を控訴人が雇用しなかったことが不当労働行為に該当し、不採用行為は無効であるとして、被控訴人が控訴人に対して雇用関係を主張したのに対し、控訴人が、本訴請求として、被控訴人との間に雇用関係が存在しないことの確認を求め、他方、被控訴人が、反訴請求として、賃金支払等の支払いを請求した事案)において、以下のとおり判断しました。
控訴人と法商学園との間に、法的に教職員の雇用契約関係の承継を基礎づけ得るような実質的な同一性があるものと評価することはできないというべきである。
法商学園は、その設置していた三専門学校において平成一〇年までに累計五万人を超える卒業生を世に送り出し、平成一〇年四月時点の総生徒数は四三六四人であった一方、昭和六三年ころから拡大路線を採り、研修施設や新校舎の購入等及び広告宣伝費に多額の資金を投じた結果、平成一〇年七月ころには一八〇億円の莫大な債務超過の状態に陥って、学校運営を継続するのが困難となり、東京都の担当者から、三校につき、平成一〇年一〇月一日に法商学園の解散と新たな経営主体への設置者変更が同時にできなければ、平成一一年度入学生の募集を停止するとの考えを示されたため、三校の引き継ぎ先(売却先)を早急に見つける必要に迫られ、Lが、東専各の協会長であるWと共に、Nに対し、新学校法人を設立して三校の運営を継承することを懇請し、Nが、これに応じて、人脈をたどり、Z、Y及びX1の協力を取り付けて新学校法人の設立にこぎつけたものであることが認められるのであって、これに反し、法商学園の解散と控訴人の設立が、労働組合を壊滅させるためとか、被控訴人の組合活動を嫌悪してこれを排除するためにされたなど、法人格の濫用に当たるものと評価すべき事実関係を認めるに足りる証拠はない。
営業譲渡契約は、債権行為であって、契約の定めるところに従い、当事者間に営業に属する各種の財産(財産価値のある事実関係を含む)を移転すべき債権債務を生ずるにとどまるものである上、営業の譲渡人と従業員との間の雇用契約関係を譲渡人が承継するかどうかは、譲渡契約当事者の合意により自由に定められるべきものであり、営業譲渡の性質として雇用契約関係が当然に譲渡人に承継されることになるものと解することはできない。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。
個人の方で、相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。
なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
2010年5月18日火曜日
労務問題(残業代問題など)の知識:女性特有の休暇
このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、未払いの残業代の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今回は、女性特有の休業についてです。
まず、労基法65条1項によれば、女性が請求することで与えられる休業として、使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない、というルールがあります。
また、同条2項によれば、請求がなくても与えられる休業として、使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない、というルールがあります。
ただし、同ただし書によると、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えありません。
なお、同条3項によれば、使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければなりません。
ちなみに、休業中は、労働協約や就業規則で特段の定めがないかぎり無休です(ノーワーク・ノーペイの原則)。
ただし、健康保険法102条によると、産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日を限度として休業期間1日につき標準報酬日額の3分の2に相当する金額が出産手当金として支給されます。
そして、労基法67条によれば、生後満一年に達しない生児を育てる女性は、法定の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができます。
育児は男性も担当することが望ましいですが、労働基準法上の育児時間は「生児を育てる女性」に認められる権利であり、男性には認められません。
さらに、労基法68条は、使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない、というルールを定めています。
以上につき、ご不明な点がありましたら、顧問弁護士(法律顧問)にご相談ください。最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。その他、残業代の不払いなどの法律問題でお悩みの方も、弁護士にご相談ください。
今回は、女性特有の休業についてです。
まず、労基法65条1項によれば、女性が請求することで与えられる休業として、使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない、というルールがあります。
また、同条2項によれば、請求がなくても与えられる休業として、使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない、というルールがあります。
ただし、同ただし書によると、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えありません。
なお、同条3項によれば、使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければなりません。
ちなみに、休業中は、労働協約や就業規則で特段の定めがないかぎり無休です(ノーワーク・ノーペイの原則)。
ただし、健康保険法102条によると、産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日を限度として休業期間1日につき標準報酬日額の3分の2に相当する金額が出産手当金として支給されます。
そして、労基法67条によれば、生後満一年に達しない生児を育てる女性は、法定の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができます。
育児は男性も担当することが望ましいですが、労働基準法上の育児時間は「生児を育てる女性」に認められる権利であり、男性には認められません。
さらに、労基法68条は、使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない、というルールを定めています。
以上につき、ご不明な点がありましたら、顧問弁護士(法律顧問)にご相談ください。最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。その他、残業代の不払いなどの法律問題でお悩みの方も、弁護士にご相談ください。
2010年4月29日木曜日
著しい不公正発行と募集株式発行の無効
このブログでは、会社の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、サービス残業の問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今日のテーマは、著しい不公正発行と募集株式発行の無効についてです。
小規模閉鎖的な会社において、会社支配権に関して株主間で対立がある場合に、ある一派が自己の持ち株比率を高めるために募集株式発行をしたために、その募集株式発行の有効性をめぐる争いが生じることがあります。この点について、最高裁は、以下のとおり、新株発行は無効にはならないと判断しました。
新株発行は、株式会社の組織に関するものであるとはいえ、会社の業務執行に準じて取り扱われるものであるから、右会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、たとい、新株発行に関する有効な取締役会の決議がなくても、右新株の発行が有効であることは、当裁判所の判例(最高裁昭和三二年(オ)第七九号同三六年三月三一日第二小法廷判決・民集一五巻三号六四五頁)の示すところである。この理は、新株が著しく不公正な方法により発行された場合であっても、異なるところがないものというべきである。また、発行された新株がその会社の取締役の地位にある者によって引き受けられ、その者が現に保有していること、あるいは新株を発行した会社が小規模で閉鎖的な会社であることなど、原判示の事情は、右の結論に影響を及ぼすものではない。けだし、新株の発行が会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があることにかんがみれば、その効力を画一的に判断する必要があり、右のような事情の有無によってこれを個々の事案ごとに判断することは相当でないからである。そうすると、本件新株発行を無効と判断した原判決には、商法二八〇条ノ一五の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由がある。
なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
今日のテーマは、著しい不公正発行と募集株式発行の無効についてです。
小規模閉鎖的な会社において、会社支配権に関して株主間で対立がある場合に、ある一派が自己の持ち株比率を高めるために募集株式発行をしたために、その募集株式発行の有効性をめぐる争いが生じることがあります。この点について、最高裁は、以下のとおり、新株発行は無効にはならないと判断しました。
新株発行は、株式会社の組織に関するものであるとはいえ、会社の業務執行に準じて取り扱われるものであるから、右会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、たとい、新株発行に関する有効な取締役会の決議がなくても、右新株の発行が有効であることは、当裁判所の判例(最高裁昭和三二年(オ)第七九号同三六年三月三一日第二小法廷判決・民集一五巻三号六四五頁)の示すところである。この理は、新株が著しく不公正な方法により発行された場合であっても、異なるところがないものというべきである。また、発行された新株がその会社の取締役の地位にある者によって引き受けられ、その者が現に保有していること、あるいは新株を発行した会社が小規模で閉鎖的な会社であることなど、原判示の事情は、右の結論に影響を及ぼすものではない。けだし、新株の発行が会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があることにかんがみれば、その効力を画一的に判断する必要があり、右のような事情の有無によってこれを個々の事案ごとに判断することは相当でないからである。そうすると、本件新株発行を無効と判断した原判決には、商法二八〇条ノ一五の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由がある。
なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
2010年3月26日金曜日
顧問弁護士(法律顧問)がよく問い合わせを受けるテーマ:公益通報者保護法
このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、残業代の不払いの問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今日は、公益通報者保護法についてです。同法のポイントを以下に説明します。
法に違反し、公益通報者に対して解雇等の不利益な取扱いを行った場合であっても、事業者に対して刑罰や行政処分が課せられることはありません。同法は民事ルールを定めたものであり、公益通報者保護法違反を理由に事業者に対して刑罰や行政処分が課せられることはないのです。ただ、それとは別に、通報対象となる法令違反行為については、関係法令に基づき刑罰や行政処分が課せられることがあります。
職場の同僚等の私生活上の法令違反行為を通報した場合は、法の対象となりません。
「請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合」の「その他の契約」には、具体的には、継続的な物品納入契約や清掃など反復継続的に役務を提供する場合が該当します。
労働者が自ら行っている法令違反行為を通報した場合であっても、同法の保護の対象となりますので、公益通報を理由とした解雇等の不利益取扱いは禁止されます。しかし、それとは別に、通報者が行っている法令違反を理由とした不利益取扱いについて、事例ごとに判断されることになります。なお、刑事責任については、刑法上の自首等の要件を満たす場合には、刑の減軽等が認められることがあります。また、労働者が法令や内部規則に違反して、法令違反行為を証明する資料を取得した場合であっても、公益通報を理由とした解雇等の不利益取扱いは禁止されます。しかし、それとは別に、法令違反や内部規則違反を理由とした不利益取扱いについては、事例ごとに判断されることとなります。
公益通報した労働者を、就業規則違反(企業秘密の漏えい禁止)により懲戒処分することはできません。公益通報については、労働契約上負っている秘密保持義務が解除されるからです。
「信ずるに足りる相当の理由」とは、具体的には、例えば、通報の事実等について単なる伝聞等ではなく通報内容を裏付けると思われる内部資料等の証拠を有する場合など相当の根拠を有する場合のことです。
行政機関以外の「その他の事業者外部」の者が公益通報を受けた場合の対応について、法律上の規定はありません。なお、一般的に公益通報は、事業者の社会的信用や営業秘密、公益通報者の個人情報等に関係することから、それらに十分配慮して対応することが望まれます。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。
個人の方で、以上の点につき相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。
なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
今日は、公益通報者保護法についてです。同法のポイントを以下に説明します。
法に違反し、公益通報者に対して解雇等の不利益な取扱いを行った場合であっても、事業者に対して刑罰や行政処分が課せられることはありません。同法は民事ルールを定めたものであり、公益通報者保護法違反を理由に事業者に対して刑罰や行政処分が課せられることはないのです。ただ、それとは別に、通報対象となる法令違反行為については、関係法令に基づき刑罰や行政処分が課せられることがあります。
職場の同僚等の私生活上の法令違反行為を通報した場合は、法の対象となりません。
「請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合」の「その他の契約」には、具体的には、継続的な物品納入契約や清掃など反復継続的に役務を提供する場合が該当します。
労働者が自ら行っている法令違反行為を通報した場合であっても、同法の保護の対象となりますので、公益通報を理由とした解雇等の不利益取扱いは禁止されます。しかし、それとは別に、通報者が行っている法令違反を理由とした不利益取扱いについて、事例ごとに判断されることになります。なお、刑事責任については、刑法上の自首等の要件を満たす場合には、刑の減軽等が認められることがあります。また、労働者が法令や内部規則に違反して、法令違反行為を証明する資料を取得した場合であっても、公益通報を理由とした解雇等の不利益取扱いは禁止されます。しかし、それとは別に、法令違反や内部規則違反を理由とした不利益取扱いについては、事例ごとに判断されることとなります。
公益通報した労働者を、就業規則違反(企業秘密の漏えい禁止)により懲戒処分することはできません。公益通報については、労働契約上負っている秘密保持義務が解除されるからです。
「信ずるに足りる相当の理由」とは、具体的には、例えば、通報の事実等について単なる伝聞等ではなく通報内容を裏付けると思われる内部資料等の証拠を有する場合など相当の根拠を有する場合のことです。
行政機関以外の「その他の事業者外部」の者が公益通報を受けた場合の対応について、法律上の規定はありません。なお、一般的に公益通報は、事業者の社会的信用や営業秘密、公益通報者の個人情報等に関係することから、それらに十分配慮して対応することが望まれます。
会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。
個人の方で、以上の点につき相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。
なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
2010年2月25日木曜日
顧問弁護士(法律顧問)がよく聞かれるテーマ:刑の種類
このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、サービス残業などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今回は、刑の種類についてです。
まず、主刑と付加刑の区別があります。主刑は単独で科すことのできる刑で付加刑は主刑と一緒でなければ科せられない、単独では科すことのできない刑です。付加刑というのは「没収」しかあり得ません。犯罪に関係したもの、犯罪によって得られた利益を犯人のものにさせないという目的があります。そして、追徴といって、その物がもはや犯人のもとにない場合でも同価値のお金を払うよう命ずることができます。
主刑の種類は「死刑」「懲役」「禁錮」「罰金」「拘留」「科料」です。
まず「死刑」は、犯人の生命を奪う刑罰です。日本では絞首によって行うことになっています。
つぎに、身体を拘束するのが「懲役」「禁錮」「拘留」です。そのうち作業を強制されないのが「禁錮」「拘留」で作業を強制させるのが「懲役」です。「拘留」は1日以上30日未満で、「懲役」や「禁錮」は原則として1か月以上20年以下となっています。もっとも例外的に重くする場合には30年まで重くできますが、それ以上に重くすることはできません。
懲役と禁錮という2種類の刑があるのには歴史的な経緯があります。すなわち前述のとおり、両者の違いは、強制労働をさせるか否かという点にあり、比較的悪質な犯罪については懲役刑として強制労働させ、過失犯を中心に比較的悪質ではない犯罪については、社会から隔離して自由を束縛するけど、強制労働まではさせないという使い分けをしていました。しかし現在では、刑を言い渡す時にそういう使い分けはしていますが、刑の執行段階では禁錮刑の受刑者に対しても任意で労働を申し出させ、結果として懲役刑との区別がつかない状態になっています。
「罰金」と「科料」は、金銭を強制的に支払わせるものです。似たものとして「過料」「反則金」というものがありますが、これらは刑罰ではありません。反則金というのはたとえば交通違反をした時にいわゆる青切符で支払うもので、期間内に手続をするとそれ以上の刑事手続には進まないとされています。過料は裁判所でも制裁として科すことがありますが、主に行政機関が科すことが多いです。罰金は1万円以上ですが、科料は1000円以上1万円未満です。
罰金刑や科料刑は、払えないと労役場に留置されます。実際には別の刑で懲役や禁錮の執行を受けている者が罰金も払わなければならない時に、出所時期を延長して労役場留置としている例が多いようです。
ご不明な点は、顧問弁護士(法律顧問)にご相談ください。また、法律問題でお悩みがある方も、気軽に弁護士にご相談ください。なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
今回は、刑の種類についてです。
まず、主刑と付加刑の区別があります。主刑は単独で科すことのできる刑で付加刑は主刑と一緒でなければ科せられない、単独では科すことのできない刑です。付加刑というのは「没収」しかあり得ません。犯罪に関係したもの、犯罪によって得られた利益を犯人のものにさせないという目的があります。そして、追徴といって、その物がもはや犯人のもとにない場合でも同価値のお金を払うよう命ずることができます。
主刑の種類は「死刑」「懲役」「禁錮」「罰金」「拘留」「科料」です。
まず「死刑」は、犯人の生命を奪う刑罰です。日本では絞首によって行うことになっています。
つぎに、身体を拘束するのが「懲役」「禁錮」「拘留」です。そのうち作業を強制されないのが「禁錮」「拘留」で作業を強制させるのが「懲役」です。「拘留」は1日以上30日未満で、「懲役」や「禁錮」は原則として1か月以上20年以下となっています。もっとも例外的に重くする場合には30年まで重くできますが、それ以上に重くすることはできません。
懲役と禁錮という2種類の刑があるのには歴史的な経緯があります。すなわち前述のとおり、両者の違いは、強制労働をさせるか否かという点にあり、比較的悪質な犯罪については懲役刑として強制労働させ、過失犯を中心に比較的悪質ではない犯罪については、社会から隔離して自由を束縛するけど、強制労働まではさせないという使い分けをしていました。しかし現在では、刑を言い渡す時にそういう使い分けはしていますが、刑の執行段階では禁錮刑の受刑者に対しても任意で労働を申し出させ、結果として懲役刑との区別がつかない状態になっています。
「罰金」と「科料」は、金銭を強制的に支払わせるものです。似たものとして「過料」「反則金」というものがありますが、これらは刑罰ではありません。反則金というのはたとえば交通違反をした時にいわゆる青切符で支払うもので、期間内に手続をするとそれ以上の刑事手続には進まないとされています。過料は裁判所でも制裁として科すことがありますが、主に行政機関が科すことが多いです。罰金は1万円以上ですが、科料は1000円以上1万円未満です。
罰金刑や科料刑は、払えないと労役場に留置されます。実際には別の刑で懲役や禁錮の執行を受けている者が罰金も払わなければならない時に、出所時期を延長して労役場留置としている例が多いようです。
ご不明な点は、顧問弁護士(法律顧問)にご相談ください。また、法律問題でお悩みがある方も、気軽に弁護士にご相談ください。なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。
2010年1月2日土曜日
顧問弁護士(法律顧問)によくある質問・・・従業員の私生活上の非行
このブログでは、企業の顧問弁護士をしている者の立場から、日々接している法律問題のうち、一般的な情報として役に立ちそうなものをメモしています。ジャンルは幅広く扱っていますが、近時、残業代が支払われない問題などの労務問題が増えているので、そのような傾向を反映した形でのテーマのバラつきはあるかもしれません。
今回のテーマは、従業員の私生活上の非行です。
労働者の私生活上の行為について、就業規則の懲戒事由(「犯罪に該当する行為」、「会社の名誉・信用を著しく毀損する行為」など)に該当するとして、労働者を懲戒処分に処することがありますが、そもそも私生活上の行為についてまで、使用者は支配・干渉し、それを理由として懲戒処分に処することができるのでしょうか。
この点について、横浜ゴム事件(従業員が、住居侵入罪で罰金2500円に処せられたのに対し、会社が懲戒解雇事由である「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当するとして、この従業員を懲戒解雇した事案)において、最高裁は、以下のように判断しました。
原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)によれば、上告会社は、被上告人が上告会社の従業員賞罰規則一六条八号にいう「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当することを理由として、同人を懲戒解雇にしたというのである。そこで、原審が認定した事実関係のもとにおいて、被上告人が右懲戒解雇の事由に該当するかどうかについて按ずるに、被上告人がその責任を問われた事由は、被上告人が昭和四〇年八月一日午後一一時二〇分頃他人の居宅に故なく入り込み、これがため住居侵入罪として処罰されるにいたつたことにあるが、右犯行の時刻その他原判示の態様によれば、それは、恥ずべき性質の事柄であつて、当時上告会社において、企業運営の刷新を図るため、従業員に対し、職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、かような犯行が行なわれ、被上告人の逮捕の事実が数日を出ないうちに噂となつて広まつたことをあわせ考えると、上告会社が、被上告人の責任を軽視することができないとして懲戒解雇の措置に出たことに、無理からぬ点がないではない。しかし、翻つて、右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となる被上告人の右行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行なわれたものであること、被上告人の受けた刑罰が罰金二、五〇〇円の程度に止まつたこと、上告会社における被上告人の職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなど原判示の諸事情を勘案すれば、被上告人の右行為が、上告会社の体面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというのほかはない。
なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
今回のテーマは、従業員の私生活上の非行です。
労働者の私生活上の行為について、就業規則の懲戒事由(「犯罪に該当する行為」、「会社の名誉・信用を著しく毀損する行為」など)に該当するとして、労働者を懲戒処分に処することがありますが、そもそも私生活上の行為についてまで、使用者は支配・干渉し、それを理由として懲戒処分に処することができるのでしょうか。
この点について、横浜ゴム事件(従業員が、住居侵入罪で罰金2500円に処せられたのに対し、会社が懲戒解雇事由である「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当するとして、この従業員を懲戒解雇した事案)において、最高裁は、以下のように判断しました。
原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)によれば、上告会社は、被上告人が上告会社の従業員賞罰規則一六条八号にいう「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当することを理由として、同人を懲戒解雇にしたというのである。そこで、原審が認定した事実関係のもとにおいて、被上告人が右懲戒解雇の事由に該当するかどうかについて按ずるに、被上告人がその責任を問われた事由は、被上告人が昭和四〇年八月一日午後一一時二〇分頃他人の居宅に故なく入り込み、これがため住居侵入罪として処罰されるにいたつたことにあるが、右犯行の時刻その他原判示の態様によれば、それは、恥ずべき性質の事柄であつて、当時上告会社において、企業運営の刷新を図るため、従業員に対し、職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、かような犯行が行なわれ、被上告人の逮捕の事実が数日を出ないうちに噂となつて広まつたことをあわせ考えると、上告会社が、被上告人の責任を軽視することができないとして懲戒解雇の措置に出たことに、無理からぬ点がないではない。しかし、翻つて、右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となる被上告人の右行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行なわれたものであること、被上告人の受けた刑罰が罰金二、五〇〇円の程度に止まつたこと、上告会社における被上告人の職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなど原判示の諸事情を勘案すれば、被上告人の右行為が、上告会社の体面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというのほかはない。
なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。
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