今回は、
サービス残業の残業代請求に関する判例を紹介します(つづき)。
(5)被告の主張について
ア 被告の主張イ(時間外労働(
残業)についての事前の承認の必要性)について
被告は,被告においては,実際に労働実態もないのに時間外手当(
残業代)が請求されることを防止するため,事前に所属長の承認を得て就労した場合の就業のみを時間外勤務として認めることとしており、原告ら主張の時間外労働(
残業)については所属長の承認がされていない旨主張する。
なるほど,被告の就業規則には被告主張のような内容の規定が存在するが(前提事実(4)ク),被告が主張するように,この規定は不当な時間外手当(
残業代)の支払がされないようにするための工夫を定めたものにすぎず,業務命令に基づいて実際に時間外労働(
残業)がされたことが認められる場合であっても事前の承認が行われていないときには時間外手当(
残業代)の請求権が失われる旨を意味する規定であるとは解されない。
そして,前記(1)ないし(4)において認定したところを総合すると,これら原告らの時間外労働(
残業)は被告による業務命令に基づくものと認めるのが相当である。
そうすると,この被告の主張を認めることはできない。
イ 被告の主張ウ及びエ(職務手当等)について
被告は,原告ら各自に対して毎月3万円の職務手当を支払っており,職務手当は時間外労働(
残業)及び深夜労働(
残業)の対価としての性格を有するから,その割増賃金(
残業代)額が月額3万円を超えない限り,改めて被告が割増賃金(
残業代)の支払義務を負うことはないことや,本件ホテルにおいては,被告の給与規定はフロント内書棚等に備え置かれており周知されていたことを主張する。
なるほど,被告の給与規定には前提事実(4)エ記載のような定めがある。
しかし,〔1〕原告らの業務内容や勤務時間がそれぞれ異なるにもかかわらず,被告は,原告に対して一律に毎月3万円の職務手当を支給していること,〔2〕被告においては,従来から,時間外手当(
残業代)の金額が職務手当の金額の範囲内に止まる場合であっても,時間外手当(
残業代)が支給されてきており,前記の被告の給与規定の定め(前提事実(4)エ)の趣旨どおりに運用されていなかったこと(〈証拠略〉,弁論の全趣旨),〔3〕この被告の給与規定の定め(前提事実(4)エ)の趣旨が本件ホテルにおいて周知されていなかったこと(証人J)からすると,職務手当が時間外労働(
残業)及び深夜労働(
残業)の対価としての性格を有すると認めることはできない。
そうすると,この被告の主張を認めることはできない。そして,この職務手当も,通常の労働時間又は労働日の賃金(労働基準法37条1項)として,割増賃金(
残業代)の基礎となる賃金に含めるべきである。
なお,被告は,皆勤手当は,無欠勤にて1か月就業した場合に支給されるものであるから(前提事実(4)オ参照),割増賃金(
残業代)の基礎となる額に含めるべきではない旨主張する。しかし,皆勤手当も通常の労働時間又は労働日の賃金であるから,割増賃金(
残業代)の基礎となる賃金に含められるべきであると解される。
(6)以上によれば,原告らの割増賃金(
残業代)額は,別紙計算表(認定)1ないし8及び別紙労働時間計算表(認定)1ないし8のとおり計算されることになり,その金額は,次のとおりである。
ア 原告A 220万5147円
イ 原告B 241万8078円
ウ 原告C 251万5919円
エ 原告D 256万3186円
原告Dが被告から時間外手当(残業代)として1万5172円を受領したことについては争いがないので,未払の割増賃金(残業代)の額は254万8014円となる。
オ 原告E 90万4378円
原告Eが被告から時間外手当(残業代)として1192円を受領したことについては争いがないので,未払の割増賃金(残業代)の額は90万3186円となる。
カ 原告F 115万1297円
原告Fが被告から時間外手当(残業代)として4770円を受領したことについては争いがないので,未払の割増賃金(残業代)の額は114万6527円となる。
キ 原告G 122万7352円
原告Gが被告から時間外手当(残業代)として2万2657円を受領したことについては争いがないので,未払の割増賃金(残業代)の額は120万4695円となる。
ク 原告H 113万8534円
原告Hが被告から時間外手当(残業代)として11万1145円を受領したことについては争いがないので,未払の割増賃金(残業代)の額は102万7389円となる。
2 付加金の請求について
原告らはいずれも未払の割増賃金(残業代)の半額に相当する額の付加金を請求していることから,前記1(6)記載の各原告らの割増賃金(残業代)についての認容額の半額を付加金として認めるのが相当である。
そうすると,原告らに認めるべき付加金の額は,次のとおりとなる。
ア 原告A 110万2574円
イ 原告B 120万9039円
ウ 原告C 125万7960円
エ 原告D 127万4007円
オ 原告E 45万1593円
カ 原告F 57万3264円
キ 原告G 60万2348円
ク 原告H 51万3695円
3 原告Hの不法行為に基づく損害賠償請求について
(1)証拠(〈証拠略〉,証人J,証人I,原告H,原告A,原告F,原告D)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告Hは,平成15年12月ころ,パートタイマーでないと今後は雇用を継続しないと被告から言われていたために,いろいろと悩んだ末,平成16年3月15日で退職する予定であった。
イ 原告らは,平成16年2月27日ころ,被告に対して割増賃金(残業代)を請求する趣旨の通知書を送付した。
ウ 平成16年3月11日,被告のマネージャーであったIが,本件ホテルを訪れ,フロント内にいた原告Hに対して,「えらいことやってくれたな。」,「会社をやめてからするもんやろう。」,「会社に世話になったんやろう。」,「こんなやつよう雇ったなあ。」,「まだおんのか。」,「この百姓が。」と,きつい口調で罵った。
また,その際,Iは,同フロントの付近で,本件ホテルの支配人であるJ(以下「J」という。)に対して,「あんなやつら,早く辞めてもらったらどうや。あんたの采配で2日分ぐらいの給料は何とかなるやろう。給料全部出してやって,あしたから来てもらうな。」と述べた。その言葉は,原告Hに十分に聞こえた。
この言葉を聞いて,原告Hは,Jに翌日から出勤しない旨を告げて,翌日以降は出勤しなくなった。
(2)前記(1)で認定したところによれば,原告Hが前記(1)ウ記載のIの行為によって精神的苦痛を受けたこと,また,このIの行為が被告の事業の執行について行われたことが認められる。
そして,原告Hが既に被告を近いうちに退職することを決めていたことなど,本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると,このIの行為に対する慰謝料としては,10万円の金員の支払を命じるのが相当であると認められる。
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